建築家・吉田 愛さんが語る、クリエイティビティと食のいい関係

どんなものを食べるか、それも自分らしさをつくる大事な要素。好きなものを好きなだけ楽しみたい!でも、キレイのためにはちょっとくらい我慢も必要……? そんな食生活に悩む女性の「?」を探るべくステキに生きるあの人”にインタビュー。

今回お話を伺ったのは、SUPPOSE DESIGN OFFICE共同主宰の建築家・吉田 愛さん。今年8月1日、渋谷にオープンした『sequence MIYASHITA PARK』をはじめ、『hotel koé tokyo』、『Gap新宿フラッグス店』といった話題スポットを数多く手がけるSUPPOSE DESIGN OFFICE。また、事務所と同じ空間に“社員+社会の食堂”をコンセプトとする飲食店『社食堂』を展開するなど、手がけた建築そのものはもちろん同社のワークスタイルにも大きな注目が集まっています。「食べることも含めて、自分自身が豊かでなければ豊かなものを作りだすことは出来ない」という仕事にも生活にも通じる吉田さんの哲学を語っていただきました。

Interview:吉田 愛(SUPPOSE DESIGN OFFICE)

--まずは、吉田さんのお仕事について聞かせていただけますか?

26歳からこの仕事を始めて、専門学校で出会った同級生同士(谷尻誠)で2000年にSUPPOSE DESIGN OFFICEを始めました。現在は、東京と広島の二拠点で活動しています。始めた当初は、予算面や立地面など問題がある物件を手がけることが多かったんです。そういう案件に対して、どういう価値をつけられるかということをずっとやり続けて、今に至る雑草系のチームです(笑)。

--本当に多種多様な建築を手がけていらっしゃいますが、たとえば6月にリニューアルオープンした『Gap新宿フラッグス店』は、アパレルショップの域を越えたすごく心地のいい空間だと感じました。

ありがとうございます。Gapさんって、カリフォルニアの発祥で最初はレコードとデニムのお店だったんですよね。そうした音楽とカルチャーの中から生まれたブランドの背景をご来店いただいたお客様に体験してもらえるような空間にしたいなと思いました。たとえば、エントランスをカフェにすることで洋服を買うことを目的としている方以外にも入店していただけますし、カリフォルニアっぽさを内装で作るのではなくコーヒーを飲みながら仕事をするっていうようなスタイルを纏うことで、お店の空気感につなげていけると思っていて。表面的なデザインというよりは、もともと持っているビジョンや思想を掘り起こして、その企業が大事にしていることを炙り出すような空間にしたいなと思っています。ですので、自分たちが作りたいものというよりは、自分たちのフィルターを通してそれぞれの持っている条件や叶えたいことを空間に落とし込んでいくというスタンスです。

Gap新宿フラッグス店
Photo by Kenta Hasegawa

--エントランス空間を手がけられた『sequence MIYASHITA PARK』についても、ぜひお伺いできますか?

宮下公園のような立体公園って、日本にはあまりないんですよね。なので、ぜひそれを残そうということで、『MIYASHITA PARK』の4階部分は公園になっています。普通、外と中って縁が切れますけど、いかにひと続きになっているような体験を出来るか。そのためには、全部土にしてグリーンを植えればいいというわけではないと思うんです。たとえば、家具って「ここに座ってください」っていうセットじゃないですか。でも公園に行くとちょっとした塀や段があったり、山であればなだらかな丘があったり、そこに自然と座りたくなる。そういうふうにランドスケープのような段々を作って、みんなが自然と能動的に使いこなせる空間にすることで、この公園の一部になるんじゃないか。そんな発想で考えています。

--用途を限定しないからこそ、意義が広がるということですね。その観点はSUPPOSE DESIGN OFFICEに併設されている『社食堂』にも通じているのでしょうか?

そうですね。自分たちは空間を作る仕事をしているので、食堂というものがオフィスに対してどういう在り方であれば新しい価値が生まれるのかということを考えました。仕事をすればオフィスになるし、食事をすれば食堂になる。そういった、行為自体で空間が変わっていく場所をみんなに知ってもらいたい気持ちもありましたし、セグメントされているいろんなものを取っ払った状態で起きる化学変化を空間実験としてやりたかったところでもあって。自分たちはデザインって面白いなと思っているし、デザインで解決できることもたくさんあると感じているので、そういうことを知ってもらうキッカケにもなるんじゃないかなと。空間の使い方も含めて、自分たちのスタンスを公表しているという感じです。

Photo by 伊藤徹也

Photo by 伊藤徹也

--“社員+社会の食堂”というコンセプトもとても興味深いです。仕事をするうえで、どういったところに食の重要性を感じていらっしゃいますか?

設計の仕事って、時間もかかるし、やっぱりすごく大変なんですよね。みんな一生懸命やっているから、その反面ついつい食事が偏ってしまったり不規則になってしまったり。だけど、自分が豊かなものに触れていないと本当に豊かなものは作れないじゃないですか。いい発想を生み出すためにも、いい食事を摂って身体を作っていく。そういう本質的なところに立ち戻って、自分たち自身もいい状況をキープしていかなきゃいけないっていう想いがありました。それに、今までって仕事と生活はバラバラで、仕事をがんばるほど生活がおろそかになるみたいなところがありましたよね。だけど、時代とともにその境目がどんどん曖昧になっていくなかで、食をキッカケに社会の人とも繋がることができるんじゃないかなって。外気に触れないところで設計ばかりしている人がいいものを作れるとは思わないので、そういう意味でもこういう環境のほうが自分たちも面白がれるかなと思っています。

Photo by 伊藤徹也

--『社食堂』では、主菜が選べる定食やオリジナルのカレーといった健康的なメニューがいただけるそうですね。吉田さんは、もともと食へのこだわりが強い方ですか?

食べること自体は好きだったんですけど、若いときは食へのこだわりを捨てないといけないくらい忙しかったから、とにかくお腹に入れとけばいいやくらいの感じでしたね(笑)。加工食品も普通に食べていましたし、自然派とかマクロビとかにこだわることを冷めた目で見ていた時期もありました。だけど、『社食堂』を作ったことで出来合いのものを買って食べることがなくなったし、人が手間をかけて作ってくれたものの美味しさを実感しましたね。

あとがけする山椒が香り高い無添加レトルトカレー
どこでも社食堂/山椒キーマカレー ¥700+tax
Photo by 若木信吾

“忙しい生活の中で欲しい要素が簡単に摂れるっていう点はすごく便利”

--そうした身体に優しい食生活にプラスして、なにか身体のために取り入れている習慣はありますか?

『社食堂』で出しているカレーをキッカケにスパイスやハーブ、漢方に興味が出て、いまは漢方を飲んでいます。それと、以前フルーツジュースなどを取り扱うお店の内装をやる機会があって、そのときに「フルーツには酵素がたくさん含まれている」っていうお話を聞いて、それから私もフルーツを積極的に食べるようになりました。一時期、サプリメントを飲んでいたこともありますね。忙しい生活の中で欲しい要素が簡単に摂れるっていう点はすごく便利だなって思います。

--不足してしまいがちな要素を補ってくれるのは心強いですよね。人によっては、漢方やサプリメントを摂取することが理想の自分に近づくためのモチベーションにもなるかもしれません。今回は『夜遅いごはんでも』という酵素サプリメントのメディアインタビューとなりますが、吉田さんは酵素にどんなイメージありますか?

この『夜遅いごはんでも』っていうコピーには、「おっ!」って思ったんです。私自身、夜遅い時間に食事することも多くて、そういうときは翌朝に漢方を飲むとか野菜やフルーツを食べて酵素を摂るとか、アフターケアをするようにはしています。だけど、年齢的なこともあってか1日で見ると大して食べていないのに消化されない感じがあって。夜遅い時間だと炭水化物は食べないでおこう……って我慢することもありますけど、1日の終わりにご褒美が欲しい!っていう時もありますよね。そういうときに、ぜひ飲んでみたいなって思いました。

--先ほど「いい発想を生み出すためにも、いい食事を摂って身体を作っていく」というお話をしてくださいましたが、食生活を意識する前と今とで仕事への向き合い方が変わったと感じることはありますか?

設計って一人で仕事が出来るまでに結構時間がかかるんですけど、私の場合は自分が長時間働いていても平気だったから、人に対して結構厳しいところがあったと思います。だけど、快適だったり気持ちがいいと感じることがどれだけ心に作用するか。食も同じで、食べることやモノによって体調が良くなったり心が穏やかになったり、いろんな効果がありますよね。そこに気づいてからは、がむしゃらな努力とか根性論っていうものは、あんまり意味がないんだなって思うようになったし、この仕事にはどんな意義があるのかっていうことを考えたうえで自分やスタッフの時間を使いたいなって思うようになりました。一番根っこにある大事なものって、健康だったりするじゃないですか。そこを見据えた働き方で長くいいものを作っていく。そういうふうな考え方に変わりましたね。そういう意味では、食の影響は大きいかもしれないです。

--自分の身体に入るものを意識することは、自分を知ることにもつながりますよね。

そうですね。自分にとってそれは本当に大事なのか?って考えるキッカケが、食にはあるのかもしれないなって思います。自分を大事にするっていうことは大切だし、人を大事に出来る人は自分のことも大事に出来ている人なんだろうなって思います。

Shop Information
社食堂
〒151-0065 東京都渋谷区大山町18−23 コートアネックス大山町 B1F
営業時間:11:00-21:00 日曜定休日 ※現在11:30-18:30(L.O)19:00まで
電話番号:03-5738-8480
URL: https://suppose.shop/

text by 野中ミサキ(NaNo.works)
photo by Nishi Yukimi

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Profile

吉田 愛 SUPPOSE DESIGN OFFICE共同主宰


1974年広島生まれ。2001年からSUPPOSE DESIGN OFFICE。2014年より共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手がける。主な作品にONOMICHI U2、BOOK AND BED TOKYO、hotel koe tokyoなど。JCDデザインアワード2016大賞、中国建築大賞2014大賞など受賞多数。2017年より、絶景不動産、社食堂、BIRDBATH & KIOSKなど新規事業を立ち上げ、プロデュース、経営総括を担い自社運営するなど、建築を軸に分野を横断しながら活動している。

Infomation

SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)

谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で幅広い分野のプロジェクトを多数手がける。
最近では、東京事務所併設の「社食堂」「絶景不動産」「21世紀工務店」を開業するなど活動の幅も広がっている。作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)がある。

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